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さつろう
看護師ライター
1988年5月18日沖縄県生まれ。看護師歴11年。精神科をメインに内科・整形外科・外科などで経験を積む。趣味は読書と美術鑑賞。一時期フードコーディネーターや舞台ダンサーでした。

ナンパしてきたゲイと喫茶店に入った話

彼と仲良くなったのは、もう10年以上も前のことだ。

一口コンロの前に立つ気分でなく、スーパーに向かう途中だったと記憶している。

仕事帰りの薄暗い道。お惣菜の値引きシールを期待しながら歩いていると、前から知らない男に声をかけられた。

パブロフの犬のごとく無視した。

というのも、ご飯のことしか考えられない状況でどうでもいい赤の他人に反応する気力がなかったからである。

駅前で配るポケットティッシュをもらわないのと一緒だ。都会は怪しい人に会う確率が高い。スルーするのは正当な反応である。

そしたら「待って待って!」と甲高い声が聞こえ、「あたしゲイなんだけど!」と突如カミングアウトされた。

なんだこいつ???と冷たい視線を向ける私に負けじと話しだす自称 ”ゲイ” 。仕事は○○、生まれはどこそこ、彼氏がいるからアンタに声かけたのは恋愛目的じゃない、など。

「ちょっとお茶しない?」と古典的な声かけに応じ、そこから仲良くなってしまった私は色々疲れていたに違いない。

私の人生でナンパをしてきたゲイは、今のところ彼だけである。


彼とはよく二人で会った。

住まいが隣の隣のまた隣くらい、距離が近かったのも関与している。誕生日を祝い、手料理を振る舞い、深夜まで飲み明かした。

なのに恋愛に発展しなかった。大人の男女が、だ。

流行りの俳優にきゃーきゃー言い、バーで潰れかけている人を「これから持ち帰るわ」といって声をかけ、深夜に「いま男と一緒」とメールを送ってくるような180cm越えの細マッチョを面白がることはあっても、トキめくことができなかった。

お互いに浮気をしていたことが気づいて別れた昔の恋や、ストーカー化した元恋人とのいざこざ。ひとりで京都の縁切り神社に行った話にセクシュアリティに気づいた思春期。どれも私にはない経験ばかりで、毎回感心と笑いがそこにはあった。

わたしは、彼がうらやましかった。


「なんで、そんな楽しそうに生きてるの?」

お互いの身の上話をすればするほど疑問が出てきた。複雑な環境で育って、いろんな人に裏切られてきた。なのにとにかくいつも笑顔。暗い話も面白おかしくネタにする。

過去と折り合いをつけることも、仕事もできず毎日がしんどい私にとって、元気なマイノリティーは異質だった。

「楽しくなんかないわよ」

いつもの居酒屋で、ハイボールを飲みながら彼は言う。

「あたしはもともとネガティブなのよ」
「見えないよ」
「見せてないからよ」

そっかあ、といいながら、梅酒ロックのコップの底を彼に向けるようにして飲み干す。わたしには、こころを開いていないと言われたような気がした。

「こころの闇とか、ネガティブな感情はすべてさらけ出す必要なんてないのよ」冷えた厚焼き玉子を食べながら、彼は続ける。

「程よい距離感で接するのよ。恋人も、上司も、ムカつくお局様も」



そんな楽しい思い出が多い彼だが、今は何をしているのか分からない。連絡先が分からないからだ。

ライン全盛期、私たちのやりとりはもっぱらメールか電話だった。ラインのふるふるで連絡先を交換しようとしたら友達になれず、ショートメールでお互いのメールアドレスを交換。

平成の名残である。

私が転職して、引っ越した後も何度か会ったけれど、連絡は少なくなり、携帯会社を変えた時に彼のアドレスも写真も手元から離れていった。

機種変更と恋愛を繰り返した私は結婚したし、会うこともないだろう。

ラインの知り合いかも?にひっそりいるが、連絡をとったところで、くだらない話しかしない気がする。友だちに追加はせずに、思い出のままにするのが賢明だと思ってこのままにするつもりだ。

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この記事を書いた人

mihasi 看護師ライター

1988年5月18日沖縄県生まれ。看護師ライター。趣味は読書と美術鑑賞だけれど、一番好きな時間はソファーで気の向くまま動画を観ることだったりします。

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